がんばらにゃ2015年5月号
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食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。食中毒患者は年間に数百万人?付けない、増やさないやっつけるの3原則Vol.23 微生物(細菌やウイルス)による食中毒は、「食の安全」問題の中で、もっともリスクの高い切実な課題です。対策として重要なのは、まずはしっかり手洗いをすること。食品事業者の間では、HACCP(ハサップ)というシステムによる衛生管理も進んでいます。怖い!微生物食中毒手洗い、HACCPで対策 厚生労働省によれば、日本では年間に1000件程度の食中毒事故が起き、2万人以上の患者が確認されています。事故の8割以上、患者の9割以上の原因が微生物(細菌やウイルス)。死亡者は年間数人〜10人に上ります。しかし、この数字は保健所、医療機関などから厚労省に届け出があった分だけ。家庭での事故などはほとんど届けられておらず、実際には微生物が原因で、統計の100〜250倍の食中毒患者が発生しているとみられているのです。 微生物による食中毒を予防するには、まずは①付けない②増やさない③やっつける̶の3原則を守ってください。生で食べるサラダは、野菜をしっかりと洗って調理し、なるべく作り立てを食べるというやり方で、「付けない」「増やさない」を実行できますね。お刺身は、魚を室温に放置せず、冷蔵庫に入れて「増やさない」を心がけて。肉の場合は、しっかり加熱して「やっつける」が基本です。調理の順番を工夫し、まな板や包丁などの調理器具を使い分けるのも、「付けない」を守ることにつながります。 そして、3原則で予防するうえでの基本のキが、「手洗い」。食品メーカーや飲食店などの間でも、高価な施設や薬剤使用などより重視されているのは手洗いなのです。発生する食中毒の6〜7割は、細菌やウイルスが手を介してうつる「2次汚染」が原因。汚染された食品を触った手で、生で食べる食品や調理器具などに触ったり、トイレに行った後の手洗いが不十分で、排泄物から移ったり。排泄物中のノロウイルスは、トイレットペーパーを10枚重ねていても手に移る、という報告が東京都から出ています。家庭でも、手洗いをしっかり行ってください。 事業者は今、3原則や手洗い励行を前提に、「HACCP」という仕組みも導入し始めています。食品製造を原料↓入荷↓保管↓加熱↓冷却↓包装↓出荷というような工程に分けて、それぞれの段階で微生物や化学物質混入などの危害が発生しないか、あらかじめ分析、予測して、危害の性質に応じて科学的に対策を講じます。とくに重要なポイントについては、継続して監視や記帳を行います。福井県民生協も、ハーツ全店の店内調理場で福井県版HACCPに取り組んでいるそうです。(※6ページ参照)食品製造・加工業者などが、HACCPで実践している「衛生的な手洗い」に学びましょうPROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。消費者団体「FOOCOM」(フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」(http://www.foocom.net/)を開設した。2012年『お母さんのための「食の安全」教室』(女子栄養大学出版部)を刊行。松永 和紀さん出典:日本食品衛生協会資料http://www.n-shokuei.jp/food_safety_information_shokuei2/food_poisoning/index.html#manual❶ 流水で手を洗う❷ 洗浄剤を手に取る❸ 手のひら、指の腹面を洗う❹ 手の甲、指の背を洗う❺ 指の間(側面)、股(付け根)を洗う❻ 親指、親指の付け根のふくらみを洗う❼ 指先を洗う❽ 手首を洗う❾ 洗浄剤を十分な流水で洗い流す 手をふき乾燥させる (タオルなどの共用はしない) アルコールによる消毒2度洗いが効果的なので、できたら❷~❾までを繰り返す2015.5月号4
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