がんばらにゃ2016年7月号
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食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。Vol.30PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。消費者団体「FOOCOM」(フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」(http://www.foocom.net/)を開設した。2012年『お母さんのための「食の安全」教室』(女子栄養大学出版部)を刊行。松永 和紀さん 天然物同士が調理時に反応して発がん物質を作ったり、体の中でも複合して影響を及ぼしたりしていることが、研究によりさまざまわかってきました。こうした影響をゼロにはできません。対策は、特定の食品や調理に偏らず、バランス良く食べることです。「天然自然だから安全」と思い込まないで 5月号で、食品添加物の複合影響よりむしろ、食品として大量に摂取する天然自然の物質同士の方が、懸念が大きいことを書きました。 たとえば、遺伝子を傷つけがんを引き起こすおそれのある化学物質「アクリルアミド」。食品中にアミノ酸の一種のアスパラギンと、還元糖(ブドウ糖や果糖など)があり、120℃以上の高温で加熱調理されると、アクリルアミドができます。 フライドポテトやポテトチップス、パンなどに多いとされてきましたが、日本人の食生活においては、野菜の加熱調理の結果できたアクリルアミドを食べる割合が多いことが、国立環境研究所などの研究で判明しました。 アクリルアミドはできるだけ摂取量を減らすのがよいのですが、アスパラギンも還元糖もごく一般的な成分で、摂取ゼロを目指すのは無理。野菜やじゃがいも料理など特定の食品を避けると、逆に必要な栄養素を摂れなくなる可能性も出てきます。では、揚げたり炒めたりという高温での加熱調理をやめるか、というと、それもよくない。揚げたり炒めたりは、食品を美味しく食べやすく変え、殺菌もしてくれる素晴らしい調理法で、メリットもたくさんあるからです。 したがって、食品安全委員会や農林水産省はさまざまな食品、調理法の料理をバランス良く適量食べることや、揚げたり炒めたりという時に加熱しすぎて焦がしてしまうのを避けることなど、マイルドな対策を求めています。 また、ハムやソーセージの製造で発色剤として使われる亜硝酸塩という物質は、体内に一般的にあるアミン類という化学物質と反応し、発がん物質を生成する場合がある、と昔は考えられていました。一時は生協でも問題視され、亜硝酸塩を使わない製品も開発されました。 しかし、野菜に多く含まれる硝酸塩が体内で亜硝酸塩となり、しかも、食べる量は発色剤よりはるかに多く、発色剤と同じように発がん物質を作る可能性があることも指摘されるようになりました。 一方で、亜硝酸塩はボツリヌス菌の食中毒を防ぐ効果もあるとされています。また、野菜にはビタミンCなどほかの栄養素もたくさん含まれ、それらが体内で生成した亜硝酸塩とアミン類との反応を抑え、発がん物質の生成を阻害するとも考えられます。 このように、食べ物は良い面、悪い面の両方を持っています。まずは、特定のものばかり食べたり避けたりせず、バランス良くほどほどを食べるのが安全、健康の秘訣、と私は考えています。アクリルアミドは自然の発がん物質発色剤だけ気にしても意味がない普段の食生活でのポイント※じゃがいもは低温で保存すると、でんぷんが還元糖に変わるため。ただし、冷蔵したじゃがいもも、 1週間ぐらい常温に置いておくと、還元糖が減り、炒め物や揚げ物に使うことができる。農林水産省が勧める「家庭でのアクリルアミド対策」1. 食事の栄養バランスに気をつけましょう 2. むやみに食品の加熱をやめないようにしましょう調理段階でのポイント[食材の準備]1. 炒め調理や揚げ調理に使うじゃがいもは常温で保存しましょう※2. いも類や野菜類は切った後、水でさらしましょう [加熱調理]1. 炒め調理や揚げ調理をするときは、  食材を焦がしすぎないようにしましょう 2. 炒めるときは、火力を弱めにしましょう3. 炒めるときは、食材をよくかき混ぜましょう 4. 炒め調理の一部を蒸し煮に置き換えたりして、炒める時間を短くしましょう 2016.7月号4

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