がんばらにゃ2018年1月号
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食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。消費者団体「FOOCOM」(フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」(http://www.foocom.net/)を開設した。新刊は「効かない健康食品 危ない自然・天然」(光文社新書)。松永 和紀さんVol.37 ノロウイルスの食中毒は、ほかの細菌による食中毒と異なり、11月〜2月に流行します。食品が原因となるだけでなく人から人へうつりやすく、毎年1万人以上の患者が発生し、重症化して命にかかわる場合もあります。家庭でも十分に注意してください。冬の食中毒ノロウイルスしっかり手洗い、健康管理を ノロウイルスを口にすると腸管内で増殖し、おう吐や下痢、腹痛などの症状が出ます。健康な成人だと軽症で済む場合が多いのですが、高齢者や子どもは重くなりやすく、脱水症状が深刻化したり、おう吐物を気道に詰まらせて窒息につながったりします。 感染ルートは主に次の5つです。❶海がノロウイルスに汚染され、カキなどの 二枚貝がウイルスを持っているのに、生あ るいは十分に加熱調理しないで食べる❷感染した人から人へうつる❸患者のノロウイルスが大量に含まれる便 やおう吐物から、人の手などを介して二 次感染する❹食品製造者や飲食店、家庭の調理者など が感染しており、ウイルスが付いてしまっ た食品を食べる❺ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易 水道を消毒不十分で摂取する ノロウイルスは低温や乾燥に強く、おう吐物などが乾燥し、細かいちりとなって空中を舞い吸い込んで感染したとみられる事例もあります。また、健康な成人の中には、感染し、便としてウイルスを排出しているのにおう吐など明らかな症状が出ない「不顕性感染」という状態になる人もいます。トイレに行った後に手洗いが不十分で、ウイルスが手から人へ、手からドアノブなどを介して人へ、というようなケースも少なくないようです。 ウイルスが手に付くなんてあり得ない、と思うかもしれませんが、トイレットペーパーを10枚重ねてお尻を拭いても、紙の繊維の隙間からウイルスが通り手に付く可能性がある、と研究で指摘されています。 近年は、二枚貝を食べて発症するのではなく、人が原因の二次感染の方が多いとみられています。 感染拡大を防止するには、主に次の4項目に気をつけてください。❶食品中心部まで85℃以上で90秒以上加熱 して食べる❷手洗いを十分にする❸体調が悪い時には調理はしない❹身近に感染者が出たら、感染者のおう吐 物などの処理、殺菌をしっかりと行う 手洗いは、トイレの後や調理前、食事前などに石鹸を使ってていねいに。身近に感染者が出た時には、おう吐物は手袋を着用したうえでペーパータオルなどで拭き取り、その後の床も、塩素消毒液(家庭用の塩素系漂白剤を希釈して作る)で十分に拭いて消毒します。感染者が触った食器やドアノブなども消毒してください。 処理に使った手袋やペーパータオルなどはビニール袋に密閉して捨てます。おう吐物が付いた衣類や下着、シーツなども、専門家は捨てた方がよいといいます。捨てられない場合には、塩素消毒や加熱殺菌などが必要です。 食べ物にかかわる仕事をしている人たちは冬場、防衛に必死です。生協やスーパーマーケット、学校給食センターなどは多くの場合、従業員に対して生ガキは食べないように、と求めています。体調に気をつけ丹念に手洗いするなど、懸命の努力が続きます。体調が悪い時には調理はしないで人から人へうつる二次感染が多い塩素消毒液の作り方、使い方家庭用の塩素系漂白剤は製品により塩素濃度が異なるため、製品の濃度を確認し、表に書かれた液量と水3ℓを合わせて、塩素消毒液を作る厚生労働省のリーフレットを一部改変食器、床、カーテンなどの消毒や拭き取り用濃度200ppmの塩素消毒液塩素系漂白剤の製品濃度液の量水の量液の量水の量濃度1000ppmの塩素消毒液おう吐物などの廃棄処理用(拭き取ったおう吐物やペーパータオル、手袋などをビニール袋の中で浸して殺菌して廃棄する)12%6%1%5㎖10㎖60㎖25㎖50㎖300㎖3ℓ3ℓ3ℓ3ℓ3ℓ3ℓ2018.1月号4
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