がんばらにゃ 2020年8月号
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食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。農林水産省獣医事審議会委員、消費者委員会食品表示部会委員などを務めている。新刊は「効かない健康食品 危ない自然・天然」(光文社新書)。松永 和紀さんVol.47 飲食店で提供される鶏刺しや鶏たたきなど鶏肉の生食が、カンピロバクター食中毒を引き起こす…。このことは、もうご存知の方も多いかもしれません。厚生労働省や自治体保健所などが盛んに「加熱用として売られている鶏肉を生では食べないで」と呼びかけています。 カンピロバクターに感染すると下痢、腹痛、発熱、嘔吐などの症状に見舞われます。死亡例はなく軽く見られがちですが、数週間後に手足や顔面神経の麻痺、呼吸困難などの「ギラン・バレー症候群」となり、重い後遺症が生じることもあります。生きている鶏はこの菌を持っていることが多く、鶏肉は汚染されていると見て調理すべきです。新鮮だから安全、は間違いです。菌は75℃で1分間以上加熱すると死にますが、外側 まず、鶏肉を調理前に洗っていませんか? 洗って汚れや肉汁を流し取りたいところですが、鶏肉に限らず肉を洗うのはやめましょう。洗うとどうしても水滴が飛び散り、シンクを汚染したり、調理台に置いておいた食材、料理などについてしまいがちです。水滴に菌が混じっていれば食中毒の原因となります。次に、鶏肉を調理する時の加熱不足に注意を。通常、菌は肉の表面にしかいません。しかし、食べやすいようにをさっと加熱するだけの鶏たたきは菌が死んでいないことも多く、飲食店で食中毒事故が発生しています。 さて、ここまで読んできたみなさん、家では鶏刺しも鶏たたきも作らないから、気にしなくていいと思っていませんか? 実は、家庭でもカンピロバクター食中毒は発生しています。肉に隠し包丁を入れたり、塩やスパイスの味をしみ込ませるためフォークで刺したりします。この時に、菌が肉の中に入り込む場合があります。そのため、鶏肉の中心部まで75℃で1分間以上、加熱する必要があるのです。さらに、生の鶏肉が触れたまな板やボウル、包丁、はしなども、菌がついているとそこからほかの食材などへの二次汚染が起きます。鶏肉を扱ったら調理器具はすぐに洗浄、消毒をしてください。もちろん、手洗いも十分に行いましょう。 生協の宅配では、冷凍鶏肉を購入する場合も多いですね。菌は冷凍や冷蔵では増殖は止まりますが死ぬことはありません。したがって、冷凍鶏肉でもカンピロバクターが生きていると考えてください。室温で解凍すると、カンピロバクターが増殖しやすい温度帯(31〜46℃)に肉を長く置くことになるので、室温解凍はせず、冷蔵庫で解凍してください。 家庭でもポイントを押さえしっかり注意して、食中毒を防ぎましょう。 食中毒が気になる季節です。日本では冬はノロウイルス、夏は細菌による食中毒が多く発生します。近年目立つのが、細菌のカンピロバクターによるもの。主に鶏肉が原因となります。調理に十分注意しましょう。家でも起きる鶏肉の食中毒しっかり加熱、汚染防止もノロウイルス53%クドア 1%腸管出血性大腸菌(VT産生) 1%化学物質 2%セレウス菌 2%アニサキス 3%その他の病原大腸菌3%ぶどう球菌3%サルモネラ属菌4%ウェルシュ菌 9%カンピロバクター15%2019年は計13,018人の食中毒患者が発生した。ノロウイルスがもっとも多く53%だったが、カンピロバクターは細菌の中で最多で、全体の15%を占めた。化学物質の食中毒は主に、魚にいる菌が産生したヒスタミンによるもの。出典:厚生労働省食中毒統計2019年の食中毒患者の主な原因鶏肉は洗わず調理調理器具の汚染も注意を下痢、腹痛、発熱…重い後遺症が生じることもがんばらにゃに関するご意見、ご感想などをお聞かせください…… ganbaranya@fukuicoop.or.jp5

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