Vol.48食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。 冬に流行するノロウイルスの食中毒。しっかりと対策を講じていますか?新型コロナウイルスとノロウイルスは性質が異なり、効果のある消毒剤も違います。区別し賢く対処し、どちらも防ぎましょう。ノロウイルスと新型コロナウイルス違いを知り、どちらも予防を 新型コロナウイルスとノロウイルスは外側にエンベロープという膜を持った形状かどうかで性質が大きく異なります。 新型コロナウイルスにはエンベロープがあり、中のたんぱく質やRNAを覆っています。口や鼻など呼吸器の粘膜の細胞に付きやすく、そこで増殖し感染します。食品に新型コロナウイルスが含まれる場合、口から胃に入りますが、エンベロープは酸性液には弱く、胃酸に触れると壊れ活性を失います。そのため、新型コロナウイルスは、「食べての感染」はないのです。 一方、ノロウイルスはエンベロープを持っていません。口や鼻など呼吸器の粘膜では増殖しませんが、口から消化管に入ると、エンベロープがないために胃酸に強く、小腸の粘膜に到達して増殖感染します。その また、家具などの消毒に効果を持つ物質も異なります。新型コロナウイルスを防ぐためにアルコール入りの消毒剤で毎日消毒しているから、ノロウイルスも大丈夫、と思っていませんか?それは間違い。ノロウイルスにアルコールは効かない、と考えられています。 新型コロナウイルスはエンベロープがあるため、エンベロープを壊すアルコールや界面活性剤でも効果があります。一方、ノロウイルスはエンベロープがなくアルコールや界面活性剤には強いのです。消毒の効果がもっとも高い次亜塩素酸ナトリ結果、食中毒が起きるのです。 したがって、新型コロナウイルスは、呼吸器を守ってマスクをし、ウイルスを含む飛沫を浴びないように人との距離をとるなどの対策が重要。一方、ノロウイルスは、食品をしっかり加熱するのが効果的です。アルコールはノロウイルスには効かないノロウイルス食中毒は食品の十分な加熱で防ぐウム溶液(※)を使う必要があります。 新型コロナウイルスは数日で不活化しますが、ノロウイルスは、数十日間にわたって感染力を保持するので、患者の嘔吐物が付いた衣服やタオルなどに加え、患者が触る家具、ドアノブなども次亜塩素酸ナトリウム溶液で消毒します。 手の消毒も異なります。新型コロナウイルスに対しては、アルコール消毒も有効。しかし、ノロウイルスには効きません。とはいえ、次亜塩素酸ナトリウム溶液は強アルカリ性で、手を拭くわけにはいかないので、流水でウイルスを洗い流すという「手洗い」がとても重要になります。 手洗いは、新型コロナウイルスも洗い流してくれるので、両方のウイルスを一緒に撃退するには、手洗いの励行がおすすめ。ハンドソープや石けんで30〜60秒もみ洗いして手に付着した汚れやウイルスを剥がし、流水で15秒すすぎます。長く感じられますが、2度繰り返すと万全です。 両方のウイルスの特徴を知り、しっかりと区別して対応しましょう。(※)次亜塩素酸ナトリウム溶液は、家庭用の塩素系漂白剤を水で薄めて用いる。新型コロナウイルス用には0.05%(濃度 500ppm)に薄める。ノロウイルスを防ぐために家具やドアノブなどを消毒する時には、0.02%(濃度200ppm)に薄めて用いるPROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。環境省中央環境審議会委員、消費者委員会食品表示部会委員などを務めている。新刊は「効かない健康食品 危ない自然・天然」(光文社新書)。松永 和紀さん感染経路家具などの表面で活性を保つ日数加熱により不活化する温度家具などの消毒手の消毒重要な対策口から入り胃などを通って小腸で増殖感染する数十日間85~90℃で90秒以上熱水、次亜塩素酸ナトリウム溶液(※)流水での手洗い(石けんやハンドソープも使う)手洗い、食品の十分な加熱、体調不良の人は調理をしないなどノロウイルス口や鼻から吸い込んだり目にウイルスが付いたりして、粘膜から感染する数日間70℃以上で一定時間熱水、アルコール(70%以上)、家庭用洗剤(界面活性剤)、次亜塩素酸ナトリウム溶液(※)流水での手洗い(石けんやハンドソープも使う)、アルコール(70%以上)手洗い、外出時はマスクをする、3密(換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面)を避けるなど新型コロナウイルスノロウイルスと新型コロナウイルスの違い2020.12月号4
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